前ページの南海トラフに分厚くつもった堆積物はどこへ行くのか?これは1970年代後半の日本列島周辺の海洋下構造調査結果から出てきた疑問でした。
この当時の日本列島形成モデルでは地向斜説も存在していました。地向斜説で考えると、現在の日本列島の南側には、かつて黒潮古陸という陸地が存在していました。
つまり南海トラフに分厚く堆積した地層がどこからきてどこへ行くのかを知ることが、日本列島形成モデルを決定づける証拠になる研究テーマでした。
プレートテクトニクス説でも地向斜説でも、以下の調査結果は共通していました。
・日本列島西南地方の地層は北から南に向かって新しい年代に移行している。
・地層の多くは砂岩、泥岩が交互に規則的に積み重なった分厚い堆積層である。
・砂岩や泥岩の地層中には陸地から供給された鉱物が含まれている。
これらの解釈は基本的に日本列島の陸地の調査から得られた証拠でした。先に示した海洋研究と海底下構造調査が実施され、さらに、1982年6月から7月にかけては、深海掘削計画(DSDP)第87次航海が実施されて南海トラフの深海底を直接掘削されました。
これらの調査により新たに加わった主な調査結果を挙げてみましょう。
・南海トラフには分厚い地層が堆積している。
・西南日本の南側深海底ではユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈み込んでいる。
・南海トラフから日本列島にかけての海底下の地層は褶曲し、所々断層が入っている。
・南海トラフの海洋掘削は東側(静岡県沖)が浅い水深で、西(和歌山県、高知県沖)に行くほど水深が深くなる。
他にも挙げ始めればきりがないほどの科学データがありますが、上記の証拠は次のように解釈されました。
南海トラフの地層の褶曲は、トラフの底からブルドーザーのように地層が押されたことによって押し付けられることによってできました。そして、この押しつけられた地層は海側から陸側に向かって厚くなっていきます。また、断層は陸側から海側に向かって浅くなっていきます。これは、海側の南海トラフ部分に堆積した地層が次々に陸側に押し付けられて陸地へと変貌していくことを示しています。
日本列島の南は地向斜と呼ばれる盆地に南から地層が静かに流れ込んでいるわけではないし、黒潮古陸のように日本列島の地層を供給するような陸地の跡は存在していませんでした。代わりに、西南日本の南側沖合の深海底では、想像よりもずっとダイナミックに地層がプレートによって次々に日本列島に押し付けられていることがわかってきたのです。そして、地層が日本列島に押し付けられる理由は、フィリピン海プレートという横に動き日本列島の下に沈み込むプレートに押されているからと判明しました。このことは、プレートというものが動いているということの何よりもの証明になったのです。
原田哲朗、徳岡隆夫(1986年)黒潮古陸.日本列島の形成 ―変動帯としての歴史と現在―(平朝彦、中村一明編)、岩波書店、p293-300.
平朝彦(1990)日本列島の誕生、岩波新書、226p .